昨年の第98回天理教青年会総会に合わせて制作した『フレグラ特別号』。
ここではその中から、伊勢谷スポーツ倶楽部特別企画『白球寮月次祭まなびルポ』を掲載。
紙面の都合上、やむなくカットした箇所を含めた完全版をお楽しみください。
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白球寮生のおつとめに向き合う姿勢がすごい――。
伊勢谷スポーツ俱楽部の取材を通して、何度となくそんなうわさを耳にした。
“スポーツ寮”という認識が強かっただけに、生徒の信仰姿勢にとても興味が芽生えていた。
今回は白球寮の月次祭まなびの様子をお届けする。
天理学寮白球寮
甲子園出場55回、優勝3回、通算勝利数79勝は歴代6位タイ。古くから輝かしい結果を残し、現在も強豪であり続けている天理高校硬式野球部(以下・野球部)。部員が生活する「白球寮」は、天理高校から南へ車で3分、のどかな立地に建てられている。かつて天理高野球部を志した筆者にとって、白球寮はいわば憧れの場所だ。
9月29日の夕暮れどき。浮き足立つ筆者を玄関で迎えてくれたのは西尾弘喜寮長(35歳)。野球部コーチを兼任する若き寮長の明るい人柄に緊張がほぐれた矢先、甲子園出場を記念した無数の展示物が目に飛び込んだ。野球部がこれまで歩んだ栄光の足跡が飾られており、これだけで来て良かったと感じるくらい天理野球ファンにはたまらない出迎えだ。
興奮気味の筆者の耳に、鳴り物の音が聞こえてきた。「鳴り物に当たっている生徒が必死に練習しているんです」と西尾寮長が教えてくれた。実は、この日は秋季奈良県大会準々決勝の当日。大事な試合を終えた生徒が、月次祭まなびまでのわずかな時間を使って練習していた。
筆者は天理高在学時代を北寮ふしん寮(男子寮)で過ごし、大学卒業後も北寮幹事をつとめるなど、長い間天理高校に関わらせてもらった。また自他共に認める野球部の大ファンでもあるが、野球部が熱心に信仰している印象が正直なかった。その疑問を西尾寮長に尋ねた。
西尾寮長は2007年度卒の野球部 OB。天理大卒業後、2012年度にコーチ兼任の白球寮幹事として着任した。以来、当時の寮長と共に、生徒におつとめの大切さを、時間をかけて伝えてきた。またグラウンドでも橋本武徳監督(当時)が信仰を大切にしていたこともあり、徐々に野球部に信仰が根付いたのだと聞かせてくれた。
18時30分、1階事務所前に西尾寮長と4人の幹事が集まり、4階講堂へ階段を上っていく。3階まで来ると上から「しー!しー!」と声が聞こえてくる。リラックスしていた生徒たちが足音に気付き、切り替えようとする様子が想像できて、微笑ましかった。
心に響く月次祭まなび
「ただいまより、立教187年9月、寮月次祭まなびを行います!」
静粛を切り裂くような澄んだ発声をしたのは、学生寮長をつとめる林田天真さん(2年)。
新チーム発足時に寮自治会が代替わりし、9月から林田さんが月次祭まなびを仕切っている。
まず驚いたのが、祭儀式からつとめているということだ。勝手ながら、座りづとめからだと思っていた。「色眼鏡を外さないと生徒たちに失礼だな」と、すぐさま気持ちを切り替えた。
祭主をつとめるのは西尾寮長。扈者、指図方、賛者は生徒が行う。祭員は、事前に練習をして月次祭まなびを迎えるそうだ。
失礼ながら祭儀式中にどうしても見たい場面があった。賛者から祭文入れを受け取った扈者が祭文を取り出し、左手に持ち替える場面。実は筆者が北寮生時代、月次祭まなびで扈者をつとめた際にこの所作を間違えた記憶があったからだ。首を伸ばして見ていると、完璧にやってのけた!心の中で大きな拍手を送らせてもらった。
祭員は上折下立、下進上退、亀足もきちんと行っていた。彼らは全員、信仰のない家庭から入学した生徒。真剣さが伝わる素晴らしい祭儀式だった。
おつとめは座りづとめ、よろづよ八首、その月と同じ数の下りが行われる。座りづとめが始まると、生徒たちの唱和する声がすごい!声量と伸びた背筋から真剣さが感じられる。まさに圧巻だった。
座りづとめの第一節で印象的な場面があった。ある鳴り物が立て続けに間違ってつとめられていた。しかし本人は自信満々につとめている。すると、生徒同士で声をかけて間違いを伝えに行った。幹事が指摘する前に生徒同士で対応する姿に、主体的に月次祭まなびに向き合っていることが感じられる場面だった。
よろづよ八首、九下り目は総立ちでつとめられた。白球寮では、起床後に朝づとめがつとめられ、てをどりまなびでは月次祭まなびでつとめる下りを毎朝つとめ、本番で踊れるように識しているそうだ。ここでも印象的な場面が二つあった。一つ目が、合掌の手が美しかったこと。両手の指を伸ばして、しっかりと合わせている。第二節でも感じたが、てをどりをつとめながらも指先に意識が向いていることに、感心してしまった。
二つ目に、3年生のおてふりが上手なことだ。九下り目は足の運びが難しいが、きちんと踏めており、正確な手振りをしている。彼らの唱和やおてふりは確実に下級生の手本になっているはずだ。3年生が模範になっている姿に、信仰が伝わる雰囲気を感じた。
おつとめ後は、「諭達第四号」を全員で拝読した。
コロナ以前は祭典講話に教内の方を呼ぶこともあったが、最近は西尾寮長がつとめているそうだ。今月は僭越ながら筆者が祭典講話をつとめさせていただいた。事前に西尾寮長から「教会で合宿をさせてもらうと、こんなに応援してもらっているのかと生徒が感動するんです。どれだけ応援されているかを伝えていただいたら喜ぶと思います」と、ヒントをもらっていた。
野球部の虜になって約30年、筆者の専売特許である。天理野球愛を爆語りして、少しだけ最近感じた「信仰のおかげで心が救われた話」をさせてもらった。「こんなに真剣に聞いてくれるの
まなび終了後、全員で『天理高校校歌』を斉唱。西尾寮長のあいさつ後に解散となった。
伊勢谷スポーツ俱楽部×白球寮生
感動した――。
月次祭まなび終了後に抱いた素直な感想だ。野球をするために天理高に入学した彼らが、真剣におつとめをつとめる姿に心が揺さぶられた。
同時に「なぜこれほど真剣におつとめをつとめるのか」「野球だけに専念したいと思わないのか」「この空気感はどうやって育まれたのか」、そんな疑問が頭の中にあふれていた。
西尾寮長の計らいで、インタビューさせてもらうことができた。
まず、学生寮長の林田天真さん(2年)、主将の永末峻也さん(2年)に話を聞いた。
―月次祭まなび素晴らしかったです。
林田
月次祭まなびは月の終わりにつとめるので、1カ月身体を貸していただいたことに感謝して、しっかり唱和してつとめさせてもらっています。
天理教を知らずに入部する生徒が多いので、入学当初は幹事さんと教義の先生に教えてもらいながら、いいおつとめを心がけています。
―おつとめ、または信仰が野球に生きていると感じることはありますか?
永末
おつとめを通して一つになれると思っています。朝に全員でおつとめをすることから1日を始めることによってチームの一体感が生まれていると感じます。
また、「一手一つで頑張っていこう」という声掛けができるんです。最初はみんな「個」が強かったんですが、最近は「チームのために、人のために」という空気ができているように感じます。
―祭儀式の祭員の所作も素晴らしかったし、合掌がとてもきれいでしたね。
林田
所作はしっかりとさせてもらおうとみんなで心がけています。合掌は寮長先生が「心の乱れにつながるから指や手を意識して、心もキレイにしていこう」と常におっしゃってくれているんです。
―信仰になじめない1年生もいると思いますが……。
林田・永末
先輩の姿を見て、自然と伝わるんです。
―それでもなじめない子はどうしますか?
林田
部屋人と良い上下関係を作っているので、信仰で分からないことがあったら、先輩に聞くことで理解する人が多いです。
続いて、前学生寮長の麻田悠介さん(3年)、教会育ちの岡山倖暉さん(3年)に話を聞いた。
―現役時代を振り返って、おつとめや信仰が野球に生きていると感じたことはありましたか?
麻田
ひのきしんやおつとめを通して神様と向き合ってきたということが、試合中のピンチや劣勢の場面で、冷静になれる材料の一つになっていました。
―教会で生まれ育った岡山さんは、初めて白球寮に来たときはどう感じましたか?
岡山
野球もおつとめもしっかり取り組める環境が揃っていて、本当にありがたかったです。
入学当初はおつとめをしない生徒も多かったですが、3年間通して教えをしっかり身に付けて、自らひのきしんに取り組む子も増えました。良い人間関係も築くことにもつながったので、野球にも生かされたと思います。
―天理高校で学んだ信仰は大学野球でも生きそうですか?
麻田
人のために心を使うことや、人のために行動することの大切さを教えてくれた天理の教えは、どこにいても生きると思います。
最後に、北寮幹事を退職後、白球寮幹事に着任した梶村明史さんに話を聞いた。
―北寮から白球寮に来てどう感じましたか?
信仰に向き合う姿勢はすごいものがあると感じました。おつとめもそうですし、ひのきしんを進んでしている子が多いことに驚きました。ひのきしんの大切さは、点呼話や寮長先生の話、またグラウンドでも伝えているので、その影響が大きいと思います。
―白球寮の良さは何だと思いますか?
日々の主体性ですね。「野球と生活はリンクしている」とグラウンドで言われるので、そこを意識して彼らなりに実践していると思います。
また、身上時には「おさづけしてください」と言ってきたり、生徒たちがお願いづとめをさせてもらいたいと提案してくることもあります。今の代は毎朝ひのきしんをしています。
―その空気感はどうして育まれたのだと思いますか?
代々の伝統だと思います。しっかりとした雰囲気を先輩達が作ってくれたので、幹事としてこの良い空気を次の世代に継承したいと思いますね。
伊勢谷のふりかえり
林田さんと永末さんへのインタビュー中、あえて色眼鏡を掛け直して聞いた質問がある。祭儀式の所作が完璧だったことに対して「間違えたら幹事さんに怒られますよね」と聞くと、「怒られることは一切ないですが、自分たちで心がけています」と間髪入れずに林田さんが返答してくれた。また「先輩の姿を見て伝わるんです」と話す彼らに、失礼を承知で「先輩が言わなくても伝わるんですか」と聞くと、二人そろって「そうです」と力強く答えてくれた。
北寮幹事時代、厳しさや強制感を出して「伝える」ことをしていた筆者にとって、若者の育成の大事なヒントをもらった。
もちろん、現在の雰囲気になるまでには「伝える」ことも大切だっただろう。そのフェーズの先に、信仰が「伝わる」にをいが白球寮には流れていた。
教会や分会に、そんなにをいを今以上に広げていきたい!伝わるお道の人間でありたい!
そう夢を膨らませながら帰路に就いた。
(文=伊勢谷和海 写真=廣田真人)
伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI
1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。
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