174.そっちで力をゆるめたら

元大和小泉藩で、お馬廻り役をしていて、柔術や剣道にも相当腕に覚えのあった中野秀信が、ある日おぢばへ帰って教祖にお目にかかったときのこと、教祖は、「中野さん、あんたは世界で力強やと言われていなさるが、一つこの手を放してごらん。」と仰せになって、中野の両方の手首をお握りになった。中野は仰せられるままに、最初は少しずつ力を入れて握られている自分の手を引いてみたが、なかなか離れない。そこで、今度は本気になって満身の力を両の手に込めて、気合いもろともヤッと引き離そうとした。しかしご高齢の教祖は、神色自若としてビクともなさらない。まだ壮年の中野は、今は顔を真っ赤にして何とかして引き離そうと力の限り何度も、ヤッ、ヤッ、と試みたが教祖は依然としてニコニコなさっているだけで、何の甲斐もない。それのみか驚いたことには、中野が力を入れて引っ張れば引っ張る程だんだん自分の手首が堅く握りしめられて、遂には手首がちぎれるような痛さをさえ覚えてきた。さすがの中野も、ついに耐えきれなくなって「どうも恐れ入りました。お放し願います。」と言って、お放し下さるよう願った。すると教祖は、「何もあやまらいでもよい。そっちで力を緩めたら、神も力を緩める。そっちで主税を入れたら、神も力をいれるのやで。このことは、今だけのことやないほどに。」と仰せになって、静かに手をお放しになった。

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